立川せんせいの自由帳

職人の手。

患者さんがぽろっとね、

何気なくいった言葉が、

私の心の中に、残ることがあるのね。

『先生、私、実はそんなに優しくないの。』

そんな人がいてね。

こうすればいいじゃん!こうしてごらんよ!とか

思っちゃってね。

今は言わないけど、昔はぽろっとね言っちゃっててね、

人のぐさっとくるようなことをたまに言ってしまってね。

あぁ、また私余計なこと言っちゃったかな、、とか自分を責めたりね。

だから、あんまり言わないようにしよう。ってね、、、。

言わないようにしよう、

見ないようにしよう、

聞かなかったことにしよう、

感じなかったことに、してしまおう。ってね。

気にしないようにしてね。

、、、。

そんな人がいてね。

、、、。

彼女が思う彼女はね

人の気持ちに寄り添えなかったり、

することがあったんだって。

いろいろ、あったんだね、きっと。

美の世界で人を美しくしてきた彼女の手は、

指は人の頭皮に添わせるように、

まあるくて。

指先にもセンスが光っててキラキラ綺麗。

でも、そんな彼女の手には

無数の傷跡があるのね。

仕事で怪我をした時は、

自分の傷の心配なんて、する暇なくって、

『血が出なければそれでいい。』

お客様が、最優先。

お客様に満足して帰ってもらえるように、

常に周りに気を配って、

目を配って、心も配ってね、

配りまくって(笑)

へとへとになっても練習練習練習。

日々いつも時間に追われ、一生懸命。

なりふり構わずに。

人一倍努力してきたのね、きっと。

所も構わず。

文字通り、血の滲むようような努力だったと思うのよね。

子供が生まれてからも、家事をする時も

ちょっとの火傷なんてへっちゃらよ。

『あー、これくらい。なんともないですよ!』

そうやっていつも一生懸命、

急いで急いで急いで。

テキパキと。

なんでもこなしちゃう。

そうやっていつの間にか、いっぱいできた彼女の傷は、勲章のようなもので。

働き者の、

職人の、

母の、

センスのいい女性の、

かっこいい、

あったかい、

素敵な、

手。

傷の痛みを味わうなんてね、そんな暇、なかったのね。

だからね、

乗り越え方は知ってるし、

傷ができた時の対処の仕方は

充分知ってる。

でも、じっくり味わうほどのね、

時間がね、余裕がね、そんなの、なかったのね。

だからね、

鈍感なんかじゃない。と私は思うのね。

自分の気持ちに寄り添ってる時間もなかった彼女だから。

きっとね、

やれません、できません、

なんてね、

言えない時代の中で、

必死に、

直向きに

やってきた人だから。

けしてね、

優しくなんてね、

居られなかったんだと思うんだよね。

人にじゃなくて、

自分にね。

時間ができて、

自分に向き合う余裕が少しできた今、

振り返るといっぱい傷があって

実は見えないうちに心にもちっちゃな傷がいっぱいあって、

うちでじっくり治療中。

癒す時間をもつことで、

一気に出てくる、

辛かった気持ち。

しんどかったあの時代。

本当に苦労した、大変だったあの時間。

ああ、

あの時の気持ち。

身体はあなたの耐えた我慢や苦労も知っているけれど、

あなたの培ってきた経験も、誇るべき努力も知ってるのね。

あなたは忘れた気になっていても、身体は、ちゃんと、おぼえてくれてるのね。

今までずっと、急いできたからね、

いきなり時間ができても、

困るよねぇ。

びっくり、するよねぇ。

そらそうだ。

だからね、時間はかかるけどね、

ゆっくり癒すのね。

ゆっくり、

見ていこうとおもうのね。

良ければ私をお供にして

ゆっくり、傷を見ていきましょう。

あなたの勲章を

もっと見せてね。

あなたの素敵な勲章。

私は、

あなたの足元にも及ばないけれど、

同じように師を志して、息を切らして突っ走ってきたあなたを、

いつも尊敬の心を持って、

施術をさせていただいています。

だから、時間をかけましょう。

じっくりいきましょう。

そして、師となるように。

高みを目指して。

誇り高く。

しゃんと背筋を伸ばしてね。

私も、あなたに恥ずかしくないように

精進しようと思います。